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若くて白髪が生えると、親がそうだったのだから仕方がない、などとよくいわれます。そして、それは遺伝だという話になります。親が胃ガンで死ぬと、自分も胃ガンで死ぬのではないか、と気にする人がいます。きびしくいえば、白髪になるのも、胃ガンになるのも、健康レベルの低下のうちにはいるでしょう。
健康レベルが変動する原因の一つとして、ここでは栄養だけをとりあげることにしたことを、皆さんに承認していただくことにしましょう。
それは、気象関係や人間関係を考慮にいれると、ややこしくなるという理由にもよりますが、それよりむしろ、栄養条件というものが、決定的ともいえるほど重要であるという理由によります。またそれが、自分でコントロールできるという理由によります。
ここまでの運びのなかで 皆さんは、健康レベルあるいはその変動と、遺伝とのあいだに関連があるのではないか、と想像されたのではないでしょうか。そうであるにせよないにせよ、この関連に問題をしぼるのが、私の立場なのです。
私どもが、自分自身について、誕生から今日までをふり返ってみますと、大部分の人は、20歳前後のいわゆる青春時代に、健康レベルが最高であったことに気付くだろうと思います。
当時は疲れを知らず、無理もききました。それは、40代、50代には思いも及ばないものでした。
ところで 私どもが親からうけついだ遺伝子は、赤ん坊のときから、青春時代をとおしてずっと変わるものではありません。もっとも、厳密にいえば突然変異がおきて、その細胞が仲間からはずされることがありますが、それはいまは論外にしておきます。
遺伝子が不変だとすると、一つの疑問がおきます。それは、親ゆずりの遺伝子が不変だというのに、健康レベルの変動があるのはなぜか、という疑問です。青春時代の高い健康レベルが、中年にむかってなぜ低くなったか、という疑問です。
ズバリ答えをいうなら、健康レベルの低下は、遺伝子がフルに活動するだけの栄養をとらなかったのが原因、ということです。遺伝子は一つの物質です。物質が活動するためには物質的条件がいります。その物質的条件というのは、栄養物質のことなのです。
それなら、栄養の補給が完全なら、青春の健康レベルが永久に続くか、とたずねる人がいるかもしれません。それに対して私は、続かない、と断言するわけにはいかないのです。むしろ、続く可能性がないではない、と答えるべきかもしれません。もう少しつっこんでいうなら、突然変異がおきなければ、続く可能性が出てくる、といっておきましょう。
突然変異といえば皆さんは、金魚の例を思い出されるかもしれません。フナのなかに赤い色をもったものがあらわれました。これの子に、赤い色のフナがまたあらわれました。この赤いのと赤いのとをかけあわせて、江戸時代の人が金魚という新しい品種をつくりました。突然変異とは、この最初のフナのような、親に似ない子が生まれる現象、といってよいでしょう。それは、受精卵に突然変異がおきたのです。その突然変異は、遺伝子におきました。だからこそ、親とちがう子が生まれたのです。
私たちのからだは、もともと、60兆個※の細胞からできています(※現在は32兆個と考えられています)。遺伝子は、その一つ一つにちゃんとおさまっています。神経細胞と筋肉細胞は例外ですが、そのほかの細胞は、細胞分裂によって新しい細胞を生み、古い細胞は死んでゆきます。親が子を生むように、細胞が細胞を生むのです。
そういうことであれば、赤いフナが生まれたように異質の細胞が生まれる可能性が想定されるでしょう。事実、細胞分裂のさいに突然変異がおきて、異常細胞が生まれることがよくあるのです。
異常細胞は不幸な運命をたどります。それは、細胞分裂もできず、正常な機能をなしえないで、寿命がつきてしまいます。結局、異常細胞ができると、細胞の数が減ることになるのです。だから、年をとるにつれて、私たちのからだをつくる細胞は減ってゆきます。平均してその数は一日に10億個ほどになります。
さっき、青春の健康レベルが続けられるかどうかを問題にしましたが、細胞の数が減ることを考えにいれると、この望みのうすいことに気付かざるをえないのです。
成人病として恐れられているガンも、突然変異が原因です。突然変異が生んだ異質細胞のうち、たちの悪いのがガン細胞ということになります。ガン細胞は、正常な機能をもたないくせに、やたら分裂をくり返す性質の異質細胞ということになります。
加齢につれて健康レベルが落ちてゆくことは、誰にでもわかる現象です。なぜ健康レベルが落ちるかといえば、いま述べたように、突然変異によって細胞の数が減るから、ということになります。
細胞数にピントをあわせれば、老化とは、細胞の数が減ることではないか、という気がしてきます。
細胞というものは 私たちのからだを構成する単位です。細胞は私たちのからだの生命の担い手といってよいでしょう。肝細胞は肝臓の受け持つ機能をはたします。脳細胞は脳の機能をはたします。細胞は、持ち場、持ち場に応じた働きをしているのです。
だから、細胞の数の減ることは、働き手が減ることを意味します。成人病の一つに糖尿病がありますが、これは、膵臓にあるランゲルハンス島のべータ細胞のつくるインシュリンの不足からくる病気です。年をとって、ベータ細胞の数が減れば、インシュリンの量もへるわけでしょう。インシュリンの量が少ないのなら、それに応じてからだを小さくしなければ、インシュリンがたっぷりゆきわたらなくなります。 そこで、糖尿病の人は、体重を減らさなくてはならず、そのためにカロリー制限が必要、という話になってくるのです。
インシュリンは、全身にゆきわたる必要があるために、すべてのホルモンのうち、最も大量につくられており、その量の不足の影響は、格別ひどいのです。そのために、細胞数の減少の問題がわかりやすいのですが、これと似た現象は、細胞数の減少に必ず伴ってきます。ただ、それが、糖尿病の場合ほど顕著に表面化してこないだけのことです。
脳細胞は、分裂しないものですから、異常細胞の出現はありません。しかし、脱落といって、機能を失う細胞がでてきます。それは、毎日15万個というのですから、ばかになりません。
とにかく私たちは、年をとるにつれて、体細胞の数が減ることを覚悟しなければなりません。老人のなかには、まだ若い者には負けない、などと胸を張る人がいますが、少なくとも、細胞という生命の担い手の数が減っているのですから、負けないわけにはいかないのです。そのことは、短距離競争でもやってみれば、たちまちわかるでしょう。
三石巌著『知らないと損する健康100の知恵』P19~25より