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コラム

COLUMN

 

知らないと損する健康100の知恵
プロローグ「無知で健康は守れない」より-3/6

変異原性とガン

突然変異というものが、細胞数の減少の原因でもあり、ガンの原因でもあることを知った人は、何とかしてこれを防ぐことができないものか、と思うでしょう。果たして、突然変異を防ぐことは可能なのでしょうか。

発ガン物質というものがあることを、皆さんはご存じだろうと思います。ガンが突然変異から起こるとすれば、発ガン物質とは、突然変異を起こす物質だと分かります。突然変異を起こす性質を〈変異原性〉といいますから、発ガン物質には変異原性があるわけです。

そこで知ることは、発ガン物質とは、突然変異の原因物質の意味ですから、それはガンを起こすこともあるし、異常細胞を作ることもある、ということです。そのことは、発ガン物質として札つきのものを食べても、いっこうにガンにならない事実を私たちが経験していることで、見事に説明してくれるでしょう。

実を言うと、遺伝子が突然変異を起こしても、これを修復する能力が、大抵の生物に備わっています。そしてその能力は、人間が一番優れているのです。私たちが発ガン物質を毎日のように口に入れているのに、誰も彼もがガンになるのではないことの理由は、ここにあるのです。

遺伝子が突然変異を起こして、それの修復ができないときには、異常細胞でなければガン細胞ができることは、もうお分かりでしょう。ここでの問題は、ガン細胞はやがて発見されることになるのに、異常細胞は発見されないということです。それはつまり、細胞数の減少は、気がつきようがないということです。私たちの体は、気がつかないまま、じわじわと老化してゆくのです。

突然変異は防げるか

突然変異という曲者を取り押さえることができれば、ガンを防げる、老化も防げる、としたら、そこに明るい希望が出てきます。そういうことなら私たちは、突然変異の防止に全力をあげなければなりますまい。しかし、そうは言っても、突然変異の原因は何かを突き止めることができなければ、話になりません。

私たちは、発ガン物質に変異原性のあることを知りました。それならば、私たちはまず、発ガン物質を取らないようにしなければなりません。これは、老化の予防に役立つことにもなるからです。

ところで、突然変異を起こす原因は、いわゆる発ガン物質だけではありません。言葉をかえて言えば、発ガン物質と呼ばれていない発ガン物質が、色々あるということです。

例えば、X線やその他の放射線に発ガン性があると言われています。しかし、それらを発ガン物質とは、誰も言いません。それらに体をさらされると、体内の水が分解して、〈活性酸素〉と呼ばれるものを作ります。これは、いわゆる発ガン物質と違って、様々な物質に強烈な攻撃を仕掛けます。遺伝子も攻撃の対象になりますから、この活性酸素は変異原性を持つわけで、発ガン物質の仲間に入ることになります。

ところが、この活性酸素は、体内のいろいろな場面で発生するものですから、食べ物に気をつけても防ぎようがありません。鉄があるとビタミンCからも発生するというのですから、油断も隙もないのです。

こう考えると、発ガン物質やX線や他の放射線に対する警戒をいくら強めてみても、発ガンや老化の原因は、あっちこっちにも現れることが分かります。

そこで今度は、活性酸素除去物質というものが、脚光を浴びることにならざるを得ません。だがしかし、そんな有り難い物質が、果たしてあるのでしょうか。

東北大学のチームが、日本全国の長寿村と呼ばれる地方を調査して回った結論は、そこの住民の共通した食べ物としてカボチャがあったという事実です。カボチャの橙色の色素は〈ベータカロチン〉ですが、これは活性酸素除去物質の一つとして知られています。ベータカロチンは二つに割れてビタミンAになるという意味で、栄養物質として評価されていますが、これは活性酸素除去作用もあるのです。だからこそ、カボチャを食べることが長寿の条件である、などと言ったら短絡と見えるかもしれませんが、ここに一面の道理のあることは確かです。

一方、厚生労働省では、百歳以上の長寿者の日常の食べ物の統計を取ったことがあります。その結論は、彼らが毎日一個か二個の卵を取っている、ということでした。卵黄の色素はベータカロチンです。そしてまた、卵にはビタミンB2が含まれています。このビタミンB2にも、活性酸素除去作用があるのです。

活性酸素除去物質として有名なものとして、それ以外にアルファトコフェロールがあります。それは、小麦胚芽に含まれているビタミンEです。

一般常識の中で、ビタミンが栄養物質であることは完全に定着していることと思います。

ベータカロチンそのものはビタミンではありませんが、ビタミンAの前駆物質であるところから、やはり栄養物質の仲間とされてきました。

ところが、活性酸素除去作用を持つということで、ベータカロチン、ビタミンB2、ビタミンEなどが登場してきました。そこで、私たちは、これらの物質を、体の材料とか、酵素の補助物質とか、エネルギー源とかいうもの以外に、変異原性物質である、活性酸素の除去にも利用していることを、認めなくてはならなくなりました。これは、栄養物質と言われているものの、食べ物と言われているものの役割が、非常に複雑であることを物語る事実ではないでしょうか。

体内に発生する敵

未熟児網膜症という怖い病気をご存じでしょうか。未熟児は、正常の赤ちゃんと違って、普通に寝かせておいたら命はありません。そこで、保育器に入れて濃厚な酸素を送り込むことになります。そうすれば、普通の赤ちゃんのように育つのですが、その代わりに、未熟児網膜症で失明する恐れが出てきます。これが怖いといって、酸素の濃度を下げれば、今度は命が危なくなるのです。

呼吸によって肺に吸い込まれた酸素は、赤血球のヘモグロビンに結合します。ところが、このときに酸素は、弱い活性酸素になるのです。活性酸素には、弱いのから強いのまで、およそ四種類のものがあると言われています。

一方、未熟児の場合、網膜といって、目玉の奥にあって光を感じる膜のところの血管が、特に弱いのです。それで、活性酸素がそこへ行くと血管が傷んで、網膜の感光性が障害を受け、結局は失明ということになります。それを〈酸素中毒〉といいます。要するに、活性酸素というものは、毒物として働くと言えましょう。

活性酸素のように、体内で発生する敵は、このほかにもあります。それは、不飽和脂肪酸が活性酸素の攻撃を受けて、酸化する場合です。不飽和脂肪酸とは、植物油や魚油などのような液状の油の構成成分の一つです。この不飽和脂肪酸というものは、たやすく酸化して〈過酸化脂質〉になりますが、このとき〈遊離基〉という活性の高い物質を作ります。この遊離基も過酸化脂質も、私たちの体内の敵に回る代物なのです。

遊離基とは何かといえば、それは一つの分子が無理に二つに分かれたとき、それぞれの片割れを指していう言葉です。これは無理に別れさせられた夫婦の片割れに例えられます。遊離基となると、人間と違って選り好みをしませんから、相手かまわずタックルして新しいカップルを作ろうとします。そのタックルが猛烈なものですから、よその夫婦を別れさせて、新しいカップルを作ることになります。そうなると、別れさせられたカップルは、家庭崩壊とならざるを得ません。もしそれが遺伝子の家庭であったなら、突然変異もありうるわけでしょう。むろん、遺伝子でなくたって、予想をこえた実害が起こるはずです。

そうなると、遊離基を捕まえて無力化するものはないか、と誰しも思うことでしょう。この遊離基による攻撃は、大きく見れば酸化ということになるので、酸化を抑制する物質があれば、それが遊離基捕獲作用をあらわします。ということは、〈抗酸化物質〉がここで物を言うことになります。

抗酸化物質といういかめしい肩書を持つ物質のナンバーワンはセレン、ナンバーツーはアルファトコフェロール(ビタミンE)です。

三石巌著『知らないと損する健康100の知恵』P26〜33より