カルシウムは骨を構成するだけでなく、心臓をはじめ全身の筋肉の収縮・弛緩に関与し、生命維持に必要不可欠な栄養素です。
カルシウムパラドックスとは、体内のカルシウムが不足しているにもかかわらず、細胞内のカルシウム濃度が逆に増加する現象を指します。
カルシウムパラドックスが起こると、骨からカルシウムが溶け出すことで骨密度が低下し、骨折のリスクが高まります。血中のカルシウム濃度が高くなると、血管壁にカルシウムが沈着し、血管が硬くなり、動脈硬化を引き起こします。
1. カルシウムの摂取不足
食事からのカルシウム摂取が不足すると、血液中のカルシウム濃度が低下します。
2. 副甲状腺ホルモンの分泌
血中カルシウム濃度が下がると、副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌されます。このホルモンは骨からカルシウムを溶かし出し、血液中に補給する働きを持ちます。
3. 骨からのカルシウム放出
副甲状腺ホルモンの作用で、骨に蓄えられていたカルシウムが血液中に大量に放出されます。このとき、骨から溶け出したカルシウムは沈着や石灰化を起こしやすい性質があります。
4. 血中・細胞内カルシウム濃度の異常上昇
通常、細胞内のカルシウム濃度は細胞外の1/10,000程度に厳密に保たれています。
しかし、骨から過剰に放出されたカルシウムが血液に流れ込み、さらにホルモンの影響で細胞内へのカルシウムの流入が増加します。
細胞膜のカルシウムチャネルが開きっぱなしになることで、細胞内に必要以上のカルシウムが入り込みます。
5. カルシウムの沈着・石灰化と悪循環
血中や細胞内に増えたカルシウムは、血管壁や関節、脳、腎臓などに沈着しやすくなります。
6. カルシウム不足の悪循環
血中カルシウムが細胞に取り込まれすぎると、再び血中濃度が低下し、副甲状腺ホルモンがさらに分泌されるという悪循環が生じます。
カルシウムが細胞に蓄積した場合
細胞内にカルシウムが過剰に蓄積されると、細胞機能の低下や細胞死を招き、ホルモン分泌異常や筋肉の異常収縮、免疫異常(アレルギー、自己免疫疾患)など多岐にわたる健康障害の原因となります。
カルシウムが血管に蓄積した場合
血管にカルシウムが蓄積されると、血管壁にカルシウムが沈着し、血管が硬くなり、血流が悪化します。これが心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めます。さらに、血管が狭くなることで、心臓はより強い力で血液を送り出さなければならず、高血圧が悪化します。
カルシウムが骨に蓄積した場合
骨にカルシウムが過剰に沈着すると、骨の構造が変形し、痛みや機能障害を引き起こすことがあります。また、タンパク質が不足した骨にカルシウムだけが沈着すると脆い骨になってしまいます。
筋肉や神経の異常
カルシウムが不足することで起こるカルシウムパラドックスによる細胞内カルシウム過剰は、マグネシウムの相対的不足を招きます。カルシウムとマグネシウムの理想的な摂取バランスは 2:1 ですが、カルシウム過剰がマグネシウムの吸収や機能を阻害し、そのバランスが崩れてしまいます。
筋肉細胞では、カルシウムが収縮を、マグネシウムが弛緩を担当しており、マグネシウム不足で弛緩機能が低下し、筋肉が過剰収縮(痙攣)を起こします。そのため、まぶたの痙攣や足がつったりすることがあります。
特に、睡眠中は発汗や血流低下によってミネラルが失われやすく、筋肉のコントロールが不安定になります。ここにカルシウムパラドックスによるミネラルバランスの乱れが加わると、筋肉が過剰に収縮しやすくなり、夜間の足の攣りが起こりやすくなります。
精神・脳神経系の変化
カルシウムが不足すると、神経伝達がスムーズに行われなくなり、イライラ感や不安感、集中力の低下を引き起こすことがあります。特に、感情をコントロールするために必要な神経伝達物質(セロトニンやドーパミン)の分泌が正常に行われないと、イライラしやすくなります。
また、カルシウムパラドックスによって、細胞内のカルシウム濃度が異常に高くなると、神経細胞が過剰に興奮し、逆に反応が鈍くなることがあります。この状態が続くと、神経細胞の働きが低下し、精神的な不調が現れやすくなります。
特に、脳の神経細胞においてカルシウムが過剰に蓄積されると、記憶をつかさどる細胞が傷つけられ、物忘れや認知機能の低下を引き起こす可能性があります
カルシウムが多い食事を意識して摂る
カルシウムを豊富に含む小魚、牛乳・乳製品、小松菜、木綿豆腐、納豆などを積極的に取り入れましょう。
ビタミンDやマグネシウムが含まれる食事とあわせて摂る
体内でカルシウムとマグネシウムは2:1のバランスで存在しており、食事からも同じようなバランスで摂取することが大切です。
マグネシウムが不足すると、カルシウムの吸収や骨への定着が悪くなり、骨がもろくなったり、心筋梗塞や高血圧などのリスクが高まります。
マグネシウムが多く含まれている食材は未精製の穀類(玄米、全粒粉など)、豆類(納豆、豆腐、きなこ)、種実類(ごま、アーモンド)、海藻類(ひじき、わかめ)、野菜や果物(ほうれん草、枝豆、アボカド、バナナ)などです。
ビタミンDは腸管からのカルシウム吸収を促進します。 ビタミンDは魚(鮭、サンマ、イワシなど)、きのこ類(干ししいたけなど)に多く含まれています。
適度に紫外線を浴びる
皮膚には7-デヒドロコレステロールという物質(プロビタミンD3)が多く存在しています。太陽光に含まれる紫外線B(UVB、波長290〜315nm)が皮膚に当たると、この7-デヒドロコレステロールがプレビタミンD3に変化します。
プレビタミンD3は、体温の作用でビタミンD3(コレカルシフェロール)へと変わります。
合成されたビタミンD3は血流に乗って肝臓へ運ばれ、さらに腎臓で活性型ビタミンD3(1,25-ジヒドロキシビタミンD)に変換されて、はじめて生理作用を発揮します。
小魚
骨ごと食べられるため、カルシウムを豊富に摂取することができます。日常的に取り入れることで、効率よくカルシウムを摂取できます。
牛乳・乳製品
牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品はカルシウムの代表的な供給源です。体に吸収されやすいカルシウムが含まれており、手軽に取り入れやすいです。
小松菜
緑黄色野菜の中でも特にカルシウムが豊富です。他にもチンゲン菜や切り干し大根などもおすすめです。
木綿豆腐
植物性のカルシウム源として優れています。また、カルシウムだけでなく、マグネシウム、鉄、亜鉛などのミネラルも豊富に含んでいます。
納豆
発酵食品であり、カルシウムの吸収を助ける成分も含まれています。
納豆に含まれるビタミンK2は、吸収されたカルシウムを骨に定着させる働きがあり、骨粗しょう症の予防にも重要です。
カルシウムパラドックスは、カルシウムの摂取不足が引き起こす健康問題であり、骨や血管、細胞など全身に悪影響を及ぼします。健康を維持していくためにも、カルシウムを適切に摂取し、これらのリスクを軽減していくことが大切です。日々の食事にカルシウムを意識的に取り入れ、ビタミンDやマグネシウムとともに摂取することが推奨されています。
三石巌はカルシウムの不足が1日でもないように心がける必要があると考えていました。 そして、カルシウムを吸収し体内で効率よく使うためにも、三石理論の実践によって身体を整えていくことが必要不可欠です。
三石理論では「良質なタンパク質の摂取」「メガビタミンの摂取」「活性酸素の除去」の3つの柱を実践することで健康レベルを高く保つことができると考えております。 必要なタンパク質、ビタミン、ミネラルの量は個体差があり、状況によっても左右されます。日々、ご自身の身体と向き合い、必要な栄養素を摂取する健康自主管理の実践のために、三石理論を理解することが大切です。
「三石理論の実践ブック」では、その考え方と具体的な実践方法をわかりやすく解説しています。