92歳 三石巌のどうぞお先に 第10回(全10回)
三石巌が1994年に産経新聞に連載していた「92歳 三石巌のどうぞお先に」の記事です。
目次 第10回
10-1. 良質タンパクの条件
必須アミノ酸8種の比率が重要
良質タンパクとはいったい何のことか?それがはっきりしないと、論理がとおらないことになるんだ。
からだをつくっている材料物質は、たえずこわれて新しいものと交代する。交代のスピードは臓器によってうんとちがう。
からだをつくるタンパク質が交代するってことは、それが分解してアミノ酸になる一方、新しいアミノ酸がやってきて、設計図にしたがって、あとがまのタンパク質になるってことだ。
そのアミノ酸に目印があるわけじゃないから、新しいものも古いのもごっちゃになってブラウン運動をしているわけだ。結局、あとがまにすわったタンパク質も、中身をみれば、古いアミノ酸がまじっていることになるんだな。
そこで、古いアミノ酸と新しいアミノ酸と、ちがいはないのかって問題がでてくる。
からだをつくっているアミノ酸、つまり古いアミノ酸は『修飾』されていることがある。いろいろな原子団やミネラルのくっついたやつがある。それがリサイクルされて、新しくつくられるタンパク質にもぐりこむことがあるってのが、ボクの考えなんだよ。
それでわかった!『修飾されたアミノ酸をふくませないタンパク質のことを良質タンパクっていうんだろう。』これはキミの代弁のつもりだよ。
それにボクはこたえる。『それも一つの条件だ』とね。良質タンパクの条件はもう一つあるんだ。
古いアミノ酸は毎日トイレおくりになっている。尿素や尿酸の形になれば、どのアミノ酸もおんなじだが、そのまえのアミノ酸の比率が目のつけどころさ。このアミノ酸のうち問題になるのは、八種類の必須アミノ酸だ。その比率が、人間が要求するアミノ酸の比率とぴったり適合したものを『プロテインスコア100』という。
プロテインスコアはタンパク質の良質度を表すもののひとつだ。ひろく使われているアミノ酸スコアだと、百点満点の牛肉も、プロテインスコアだと90にも届かない。厳しい条件なんだ。
ボクはなんでも食う。それも腹いっぱいつめこむのが普通だ。好物は汁粉やビフテキ、ローストビーフ、てんぷらにすし。野菜は好きじゃない。
プロテインスコア100のものはなかなかない。だからボクは、そのタンパク質をつくって使っている。
1994年12月2日読売新聞に掲載
10-2. 高タンパクとビタミン
摂取すればするほど健康に
香川靖雄という人がいる。女子栄養大学をおこした香川あや子女史の長男で自治医大教授だ。この先生は『タンパク質をとりすぎている人は世界中にいない』と書いたことがある。ボクの意見もおんなじだ。
からだはフィードバックシステムだってことを前に書いた。それがまともに働けば、いるだけのNK(ナチュラルキラー)細胞がつくられるって話のところだ。
DNAが暗号文になっていることも書いた。フィードバックをうけもつのは酵素だ。その酵素の設計図は暗号文のかたちでDNAにおさまっている。
そこでフィードバックのためには、まず暗号文の解読をせにゃならん。その解読も酵素の役目なんだな。
キミは酵素がタンパク質だってことを知っているはずだ。タンパク質がなかったら暗号もとけないということになるんだ。高タンパク食を実行していないと、どんなトラブルがおきても不思議はない。これがボクの持論だ。
からだはとてもうまくできているんで、まずいことがあっても、ごまかして切り抜けてくれる。きんさん・ぎんさんは背中がまがって全体がちいさくなっているだろう。体質にめぐまれているから、あれでも元気でいられるんだよ。
それじゃあ体質とはいったいなんだ?これは、ボクの分子栄養学でかたづく問題じゃないが、つぎのことだけはいえる。
ビタミンの必要量はひとによってちがう。そのちがいは一対一〇〇ぐらいとボクはみるんだな。ビタミンにはいろいろある。どのビタミンも必要量が一っていう人は、日本人だったら、四万人に一人ほどじゃないかな。なにが根拠かときかれたら、百歳以上の人口だといっておく。
ビタミンの必要量がいくらかをつきとめるのはむりだ。そこでボクは、じぶんが一〇〇だとする。ということは、ビタミンをあびるほどとるってことさ。
酵素が助手としてビタミンをほしがる場合の多いことは、もう話した。ボクの栄養学には『フィードバックビタミン』『フィードバックミネラル』ってことばがでてくる。
フィードバックビタミンをならべよう。A・B1・B2・B12・C・E・ニコチン酸・パントテン酸・葉酸・ユビキノン。
フィードバックミネラルもならべておく。ヨード・マグネシウム・亜鉛。
ここまでわかったら、健康正常化のため、毎日なにを食わなければならんが、心のそこから納得いくだろう。
1994年12月9日読売新聞に掲載
10-3. 「参加の生活」
年齢に比例する時間の価値
「どうぞお先に」ってタイトルの意味がそろそろはっきりしたころだろう。ついでに、高タンパク食やビタミンの意味もだ。
要するに、栄養がだいじだってことだ。だが、栄養だけで十分ってことはない。活性酸素のことがあるからなんだ。
だから、栄養物質のほかに、スカベンジャー(老化などの元凶とされる活性酸素をしまつする物質の総称)をみのがしてはいかん。ビタミンA・B2・C・E、それに、カロチンとかキサントフィルとかカテキンとかね。
ボクが力こぶをいれたのはタンパク質だ。それは、タンパク質が軽くみられているのがよくないと思うからだ。また、ボクの体質論はビタミンにかかわっているが、その本流はHLA(白血球の血液型)で説明される。それによると、八十歳をこす人はDW9というHLAをもつとされていた。ところが国民の栄養がよくなると、DW9がないのに八十歳をこす人がおおぜいでてきた。
一卵性双生児はどこからどこまでうりふたつだ。ところが一方にビタミンCをやると、そっちの身長がたかくなる。ここにも栄養の価値の問題がみえてくるんじゃないかな。
このへんでボク自身のことを書くことにしよう。
ボクは二十年ほどの糖尿病患者だ。インシュリンの注射をやっている。二年か三年に一度は血糖値の検査にゆくが、数値はほとんど一定だ。老人無料検診ってのがあるが、いったことはない。人間ドックなんて振り向いたことはないんだな。ジョギングどころか散歩もやらん。毎日かかさずやっているのは、ストレッチとマッサージ。アイソメトリックスは二日に一回だ。どれも自己流さ。
健康にいいものや食品がわんさと宣伝されているが、ボクはわけのわからんものには一切とりあわん。
時間の価値は、余命に比例するって考えたらどうか。九十歳の一時間の価値は四十五歳の二倍ってことになる。価値の高い時間をテレビやゴルフにぬすまれてどうするんだ。
ボクの食生活の基本はもうわかってもらえただろう。朝食はミキサーに牛乳をいれ、そこに配合タンパクや水溶性ビタミン、レシチンや食物繊維、バナナ、温泉卵などをぶちこんでガーッとやる。スカベンジャーだのイチョウ葉エキスだのも、まぜちゃうんだ。これをのみながら脂溶性ビタミンやミネラルをのむ。生きがいってものがある。ボクはこれを「参加」という。歴史参加の意味だ。サルトルは「参加の文学」といった。ボクのは「参加の生活」かな。
1994年12月16日読売新聞に掲載
9-4. 大事なのは栄養
ビタミン、ミネラル豊富な食事を
このへんてこなエッセーにつきあってくださった『レディースアンドジェントルメン』に感謝いたします。これまでボクは、健康に関する本をヤマほど書いてきました。それと、内容も文もぴったり同じだなんて、もしもいわれたら、ボクはいやなんです。それで、内容をひねり、文をひねったりしたわけでした。
全体を通してみると、かなりくわしく書いたところもみつかりますし、あっさり流したところもあります。形としては一回読みきりですので、中途半端のまま流したところがやや多くなりました。
しかし、前回も書いたように、要は栄養が大事だってことです。そして高タンパク食のほかに、スカベンジャー(老化などの元凶とされる活性酸素をしまつする物質の総称)を忘れてはいかん。ビタミンAやB2などのほかにも、カロチンなどいろいろある。
ボクがメガビタミン主義者だってことは前にも書いた。ボクの朝食は牛乳に配合タンパク、水溶性ビタミン、食物繊維などを混ぜて飲み、さらに脂溶性ビタミンにミネラルを飲む。ボクが糖尿病だってことも書いたが、朝食のあとの口直しに、ありあわせの甘いものをやる。
1994年12月23日読売新聞に掲載