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インタビュー

INTERVIEW
Vol.7

鍼灸の技術、三石理論、これまでの学びを生かして地域貢献を目指していく

松浦 正人 氏
(市川はりきゅうマッサージ治療室 代表・元・日本鍼灸師会 副会長)

2000年に介護保険制度が施行される以前から、在宅の患者に対して鍼灸マッサージの訪問施術を開始。現在は、地域包括ケアシステムの一環として千葉県内と東京・江東区エリアにて在宅医療に携わっている松浦氏。また、日本鍼灸師会の理事を務めていた当時は、日本全国で延べ約1000人に介護予防の指導を行うなど、地域医療の発展に貢献。鍼灸マッサージによる施術に加え、運動指導、三石理論を学ぶことで培った栄養学の知識を組み合わせながら活動を続ける松浦氏に、三石理論との出合い、自身の活動への思いを伺いました。

地域包括ケアシステムにおける多職種連携にも参画

――松浦さんの現在の活動についてお聞かせいただけますか?

私が代表を務める「市川はりきゅうマッサージ治療室」には、事務職を含めて約10名のスタッフがいるのですが、千葉県内の柏市、松戸市、流山市、船橋市、浦安市、東京は江東区を対象エリアに、患者さんのいらっしゃるご自宅や施設に訪問し、保険適用の範囲内で鍼灸マッサージや機能訓練の施術を行うのが現在のメイン業務です。私が治療室を開業してから、もう45年ぐらい経つのですが、25年ほど前から訪問形式の施術を行うようになりまして、今では治療室での施術は全体の数パーセント程度です。

――訪問形式の施術を行うようになった経緯を教えていただけますでしょうか?

もう25年ほど前になりますが、当時すでに高齢化社会が問題化している中で、実際に身をもって体験した出来事がきっかけでした。私の治療室に通院されていた患者さんの親御さんが脳卒中で入院されたのですが、退院後も体調が悪くて外へ出ていくこともできないので「何とかしてほしい」と相談されたんです。本来ならばリハビリテーションの専門職である理学療法士が担当するのでしょうけれど、当時はまだすごく数が少なかったので手が回らなかったわけですね。しかしその当時、私たちのような鍼灸マッサージ師がご自宅などに訪問して施術を行うケースはほとんどありませんでした。実はマッサージ指圧師・はり師・きゅう師等に関する法律では、訪問による施術が認められていたのですが、私もその話を知人から聞くまで知らなかったので、患者さんがご負担される費用が軽減することができる医療保険のシステムをすぐに取り入れました。現在も医療保険を適用した鍼灸マッサージを医療従事者が多職種連携で取り組む「地域包括ケアシステム」に参画させていただきながら、患者さんを含め地域社会のニーズに貢献できるような業務を心がけています。

――現在は、介護予防の教室で指導も行われているそうですが、どのような経緯で携わるようになったのでしょうか?

公益社団法人日本鍼灸師連盟の役員をしていた当時、私は介護予防に関する仕事を担当することになったんです。その勉強のために東京都健康長寿医療センターで、高齢者向けの運動法や栄養、社会参加などさまざまなことを学び、今度は教わる側から教える側に回ることになったのです。それこそ日本全国を回って、延べ1000人ぐらいに指導しました。それを経て20年ぐらい前から、自分の活動地域内で介護予防の教室で運動指導を行っているのですが、その際に三石先生に教えていただいたことを、なるべくわかりやすい表現で伝えています。

自身の経験から栄養の重要性に気づき、菜食主義から脱却

――松浦さんと三石理論との出合いは、いつのことでしょうか?

40年ぐらい前になりますね。同業の人に誘われて三石先生のご自宅に伺ったのが最初でした。当時、ご自宅で勉強会のようなことをやられていて、それに参加させていただくことになったんです。その時は三石理論を勉強していたと言うよりも、当時出版されていた三石先生の著書を読んで勉強している感じでした。正直、「何の役に立つのかな?」と思いましたが、すごい先生だなと感じましたので、これは勉強しなければいけないなと。ただ、著書を読んでも全く分からなくて。5年ぐらい真剣に、一生懸命に何回も読み返していくうちに先生のおっしゃっていることが「こういうことなのではないか」とわかりだしてきて。その時はうれしかったですね。

――当時、鍼灸のお仕事に栄養学が必要だと感じられていたのでしょうか?

栄養学と言うより、栄養の重要性は非常に感じていました。私はミッション系の学校を卒業しているのですが、中学校から寮生活だったんです。ミッション系の学校に多いのですが、そこも菜食主義の学校だったので私はずっと菜食主義で育ってきたんです。それでもスポーツをやっていましたし元気だったのですが、一つ気になっていたことがありました。それは、運動後にすごく足が怠くなり、夜寝る時に足を高くしておかないと眠れない状態が続いたことでした。卒業後、よく献血を行うようになったところ、その度に「貧血気味ですね」と言われていましたが、それと足の怠さに関連があるのか、何が理由なのかがわからないまま時が過ぎました。ただ、気にはなっていたんです。そこで、鍼灸師の仕事を始めてから、自費で全国にいる菜食主義者240名にアンケートを実施してみたんですよ。結果、180ぐらいの回答があった中で、ある傾向がわかったんです。それは菜食主義だけで健康を維持するのは非常に難しいということ。その結果を原稿にまとめて「自然食・菜食は本当に健康によいか」というタイトルで健康雑誌『毎日ライフ』に投稿したところ、1988年2月号に4ページぐらいで掲載されて驚きました。

――これまでにない貴重な情報だったのかもしれませんね。

それはちょっとわかりませんが(笑)。その頃、三石先生との出会いがありましたので「実は足が怠くて」みたいな話をした際に「卵を食べなさい」と。「どうしてですか?」と尋ねたら「君は今若いから元気だけれど、年齢を重ねた時に元気さを維持できるかどうかはわからないだろ? だから卵を食べなさい。タンパク質を摂りなさい」と言われたんです。その助言をきっかけにタンパク質について勉強するようになり、毎日卵を3個食べるようになりました。そうすると献血時に「貧血気味ですね」とは言われなくなったんですよ。それが42〜43年前の話。それまで菜食主義だった私が、患者さんに「卵をいっぱい食べましょう」と言い出したものだから、みんな面食らってましたね(笑)。

三石先生との縁から生まれたつながりが、鍼の施術効果のエビデンスを得るきっかけに

――松浦さんは、かなり早い段階から地域包括ケアシステムの多職種連携で医師の方々などと訪問治療に取り組まれていますが、当初は東洋医学である鍼灸に対して偏見を受けることはなかったのでしょうか?

すごくありました。今でもあると思います。鍼でツボを刺激すると具合がよくなる。これは事実なのですがエビデンスがありませんでした。「これまでの経験から」では説得力がありませんよね。そんな頃、三石先生のお弟子さんに当たる半田先生に言われたことなのですが、不具合な姿勢を長く続けていると筋肉が固まってしまい血行が悪くなる。血行が悪くなると痛みの成分が発生することで「痛い」とか「辛い」と感じるのだと。「だから松浦さんの仕事があるんじゃないの」と言われたんです。どういうことかと言いますと、鍼による皮膚への刺激によって血管の内皮細胞から一酸化窒素が出て血管を広げ、それにより血流の循環が良くなることで「気持ち良くなる」ということなのです。そのお話を半田先生に伺ってから、対外的に鍼の効果をきちんと理論的に説明できるようになりました。半田先生を教育されたのは三石先生ですから、これもまた三石先生のおかげだなと感じています。

――鍼灸の施術、介護予防の指導などの取り組みを続けていらっしゃいますが、これからの目標や取り組んでいきたいことはございますか?

鍼灸の技術、三石理論を学び、運動についても教わった。必要なことは全て教わったので、これをどう地域社会に還元するかについて考えています。その一つが、約20年間、毎月続けている介護予防教室。自分が行っている教室以外に、行政から依頼されて行うケースもありますし、認知症サポーター養成講座の講師として動くことも多いんです。それは地域に貢献する必要があるという思いからの活動ですが、自分の仕事もありますので、そこが非常に難しいところですね。どう仕事につなげるかを考える必要はありますが、その意識が強いと利用者に引かれてしまうので…。とにかく今は地域貢献の思いもって活動を続ける。そうすれば後から結果がついてくるかなと考えています。