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インタビュー

INTERVIEW
Vol.3

三石理論にブレがないのは、基礎医学に基づいた医学的な真理だからだと感じています

細野 周作 氏
(細野クリニック 院長)

健康志向の強い母親を通じて三石先生の存在や著書と出会い、医大生時代には興味が高まり三石先生のご自宅での勉強会に参加。三石先生の教えが自身の医者としての原点と語る細野周作先生に、『三石理論』について、またそれが自身の医療にどう生かされているのかについてお伺いしました。

母親の影響から三石先生の存在を知り、その考え方が医師としての原点に

小学6年生の時、アメリカ出張に向かう途中の父親が成田空港で倒れ、脳梗塞を発症。幸い大事には至らなかったものの、この出来事を機にもともと健康志向の強かった母親は、さらに健康への意識を高めていく。その中で、友人からの紹介で三石先生の存在を知り、『三石理論』を実践するようになっていったという。

「父親が倒れる以前から健康管理には気を付けていたようなのですが、なぜ脳梗塞になってしまったのか。その後、問題なく現場にも復帰したのですが、そこからは再発を予防することが母親のテーマになっていきました。三石先生の考え方と出会ったことで、薬で病気を抑えていくというよりは病気を予防していく、そのためには食事が大切である、と。もともと母親が持っていた考え方をブラッシュアップする意識で、三石先生の勉強会やセミナーへ行くようになったのではないかと思います。なので、僕の場合は母親を通じて三石先生の教えに出会ったかたちです。当時、三石先生がプロテインにバナナを入れて飲んでいると書いた本が家にあったのですが、それを見て『このおじさんは何者なんだろう?』と(笑)。きっかけは、そんなことだったかもしれません。そこから興味を持ち始めたのだと思いますが、勉強会へ行ってみようと考えるようになったのは大学入学後でしたね。勉強会へ行けば三石先生に会えるかもしれないという思いもありました。そこで夏休みにご自宅での勉強会に参加したのですが、内容が難しくて何を言っているのか全然理解できませんでした。終わってから先生に『感想は?』と聞かれても『難しいです』としか言えなくて……。医学とは診断して治療することで病気を治すもの。一方、三石先生の教えは病気にならないためのもの。僕にとっては新鮮であり、医学生ながら腑に落ちたんですね。病気にならないほうが良いじゃないかと。これが僕の医者としての原点になっているところでもありますね」

医学と『三石理論』との間にある溝に葛藤した研修医時代

細野先生は医学生として大学で医学を学ぶ一方、著書を通じて三石先生の教えに触れ、ビタミンに関心を持つようになっていったという。

「三石先生の本に書かれていた活性酸素の話はすごく新鮮でした。その頃から最先端の医学書には、慢性的な炎症には活性酸素が影響していることを書いたものがちらほら出始めてはいましたが、僕たちが学ぶ医学の教科書には活性酸素の話などほとんど出てきませんし、もちろん栄養に関する話も出てこない。『このギャップは何なのか?』という思いがあって。僕の中でビタミンや活性酸素はかなりな関心事になっていったのですが、当時はビタミンに関する本はあまり手に入らず、三石先生の著書がバイブルではないけれど参考書のようになっていましたね」

その後の研修医時代は想像を絶する多忙な日々が続き、『三石理論』について深く考える時間も取れなかった。だが、子供の頃からアトピー性皮膚炎に悩まされていた細野先生は、栄養の摂り方やビタミンなどが症状を改善することを実感していた。しかし、医者である自分が携わる医学との間にある溝を埋めることができずにいたという。

「三石先生の栄養に関する世界観は、とても大きいですよね。病気を予防するだけではなく、医療で改善しない人たちを治している実績もある。医学と栄養は別物でかけ離れていると思いながら、栄養には医学で足りない部分をカバーできる可能性があり、その溝が埋まらない研修医時代を過ごしました。僕の場合、もともとアトピーがひどかったので中学生の頃からプロテインやビタミンを入れた健康ジュースを飲むようになったんですね。そうすると少しずつ皮膚が良くなって、アトピーの症状も落ち着いていったんです。なので、栄養の大切さや効果を実感してはいるけれど研修している医学とのギャップが埋まらない。忙しい毎日の中で漠然と考えていたような気がします」

『三石理論』をベースに、自身の医療経験で培った知識と技術を応用して患者たちと向き合う日々

細野先生は大学卒業後、大学病院等で内科学および皮膚科学の研修を積み、約15年前に独立。JR東京駅のすぐそばに統合的な全人治療を行う予約制クリニックを開業。三石先生の教えを生かしながら全国から訪れる患者さんの治療に当たっているという。

「僕の医学のバックボーンには2人の人間がいるんです。1人は三石先生で、もう1人は中村天風という人物。中村天風は、メジャーリーガーの大谷翔平が尊敬する人物として再注目されている人なのですが、わかりやすく言うなら哲学者のような人物。生きる力とか人間本来の身体の働きを高めると病気も治るし、病気の予防も行えると説いている。三石先生も哲学者的な側面がありますけれど、2人の人生哲学には通じるところがあり、僕自身の指針にもなっています。病気を治すことも大事だけれど、身体に備わる本来の働きが出てきたら自ずと病気は治っていく。僕は医者ですから治療していく医学を否定しているわけではないんです。でも、身体の働きが高まると薬の効き方が良くなっていくし、薬を使わないでも良くなることがあることも知っている。

うちのクリニックはアトピーの患者さんがたくさん来院されますが、通常の医学で行われるアトピー治療は基本的にステロイドを使って症状を抑えていきます。症状が治ると皮膚科医は『良くなったね』と言うけれど、人生は長いので治っている時もあれば急性増悪もするんです。アトピーは増悪と寛解を繰り返すので、症状をコントロールして、ある程度良い状態で過ごしていくことが皮膚科治療のゴールに設定されているわけです。ただ、薬を塗っても状態が改善しない場合が大変なんです。医師はたいてい『薬の塗り方が悪い』と言う。患者さんからすると言われた通り薬を塗っているのに良くならないので、『全然わかってくれない』と感じてしまう。そこで民間療法を始める人が多いんです。民間療法家は『薬なんて塗っているから悪くなる。薬をやめなさい』という話になるんですが、薬をやめるとリバウンド状態が起きて急性増悪するわけです。でも、民間療法でステロイドを使わずにアトピーが良くなっている人もいないわけではないんです。本人に備わる治る力が取り戻されると、薬を使わないでも症状が良くなっていくことがあるからです。

僕は両者の中間的な考え方で、薬を否定するわけではないし、一方で薬だけに頼っていくわけではありません。薬を塗るか塗らないかではなく、薬が効かないのは身体のコンディションが悪く、症状を治していく身体の働きが低下しているからであって、その働きを高めていけば薬は効くようになっていくし、さらに本来の働きが取り戻されたレベルに合わせて薬を使わないでも症状は改善していくのです。皮膚の疾患の中でもアトピーは、重症度によって対処法が変わるので、薬を塗る、薬を塗らないというような二元論的な対応だけでは解決できません。また、異常な痒みがある時には栄養条件を整えても症状が改善しないんです。

そこで、うちのクリニックでは症状の重度の患者さんには、まず身体に備わる本来の働きを高めていくために『骨格アライメント治療』という振動刺激によって「骨格」と「神経の働き」を整える治療も行います。「神経の働き」が整った上で「栄養条件」を改善していくと、健康レベルを上げていくことができ、アトピーをよくしていくことができます。しかも、アトピーに限らず体調も良くなるし、健康を維持できます。今クリニックで行っているアプローチには、三石先生の考えを僕なりの応用を加えてカスタマイズしていますが、あくまでも栄養に関する考え方のベースにあるのは三石先生の教えですね」

医師として、三石先生の後進者としての使命を感じて

ここ数年、三石先生が提唱した『分子栄養学』の知名度が高まり、考え方が広がってきたように感じるという細野先生。そんなところにも『三石理論』の凄さを思い知るのだとか。

「分子栄養学は、すごく市民権を得てきたなと感じています。僕のクリニックに来る患者さんは、いろいろ勉強されている方が多いこともあり、患者さんから分子栄養学という名称を口にされる方もいらっしゃるんです。三石先生がお亡くなりになられてからずいぶん月日が経ちますが、分子栄養学も『三石理論』も廃れることなく、むしろ広がっていますし、市民権を得てきている。医学とは、いわゆる統計学なので効果に有意差が有るか無いかという話ですので、時間が経つと以前の話と逆になることすらある。新型コロナワクチンにしても2年前の話とずいぶん違ってきていますよね。たかが2年で変わるわけです。でも、『三石理論』には基本的にそういうことがありません。なぜなら、基礎医学に基づいた医学的な真理が語られているからだと思うのです。特に栄養的なことに関しては『そうだよね』とぐうの音も出ないぐらい理論構築されている。しかも、あの時代に。すごいですよね。どこで最先端の情報を収集したのか、三石先生の頭の中を覗いてみたいぐらいです(笑)。そんな三石先生の考え方が自分の土台としてあるおかげで日々更新されていく大量の医療情報に振り回されずブレずに進めていけるのだとも思うんです。

ただ、医者の立場から言わせていただくと、残念ながら栄養だけでは解決できないこともあります。そのため、ガンや慢性疾患を患っても食事は関係ないし、バランスのいい食事や、好きな食事をしていればいいと主張いう医療者はいまだにいます。ただ、個人で異なる遺伝情報が本来の働きを発揮するために必要な栄養素の量や、病気によるストレスや生活環境で代謝に必要な量が異なるということを少しも考えていません。実際の臨床の現場では、患者さんの遺伝情報や生活環境からくるストレスによって変動する栄養条件を満たしていくことで標準治療の効果を高めていくこともできます。医者だからこそ通常の医療に栄養的なアプローチも加え、多角的に攻めて解決方法を導くこともできます。三石先生が作ってくれた栄養学には患者さんの問題を解決していくための道標があり、その指標をもとに考えを発展させるのが僕たちの仕事であり、後進者としての使命だと思っています」