文字サイズ

インタビュー

INTERVIEW
Vol.2

栄養学の常識を何十年も前から先取りしていた『三石理論』。三石先生は哲学をもって栄養学を研究するパイオニア

阿部 皓一 氏
(薬学博士・日本ビタミン学会功労会員・武蔵野大学薬学部SSCI研究所分析センター長・株式会社メグビー顧問)

約20年前、エーザイ株式会社でビタミンEの研究を担当していた頃に『三石理論』と出合い、書籍を通じてその奥深さに感銘したという阿部皓一先生。今回、ビタミン研究者としての立場から『三石理論』について語っていただきました。

『三石理論』とは、確固たる哲学をベースに持つ科学に則った栄養学

約50年間にわたってビタミンEの研究に携わっている阿部先生が、三石先生の存在ならびに『三石理論』を知ったのは約20年前のことだった。当時在籍していたエーザイ株式会社の部長から三石先生の話を聞いたことがきっかけだったという。

「三石先生は過去にエーザイで講演をされたことがあり、当時の部長から『素晴らしい先生がいる』という話を聞いていたんです。その後、縁あって三石理論研究所を訪れる機会を得て以来、今までに三石先生の著書を25冊読ませていただいていますが、最初の印象が変わることなく、奥深さを感じ続けています。特に私が感銘を受けたのは、『三石理論』には哲学があることでした。研究には哲学が必要なのですが、三石先生は一般の方にも理解できるようなわかりやすい文章で難しい内容を解説されている。分子栄養学という学問を市民活動にまで発展させているんです。学問で終わらせるのではなく、市民に知らせなければいけないと。大学の研究者もそうですし、当時の私も企業内研究者でしたが、研究だけやっていればいいと考えがちです。しかし、そのスタンスは違うのだなと感じさせられました。

また、『三石理論』は科学に則った栄養学であるとも思うのです。我々の生命反応は一つひとつが化学反応なのですが、例えばお医者さんは病気を診断し、薬や外科手術などで治療を行えばいい。そこに科学性が感じられないこともある。しかし、三石先生はビタミンCや活性酸素といった化学的な物質の動きや、それらがなぜ身体に有効なのかを説明しています。

普通、栄養学を語る際には化学式をもって説明するもの。化学式を知ることが基本ですが、それでは一般の方には伝えづらい。言い換えるなら、化学式を使って説明したほうが楽なんです。ところが三石先生は化学式を用いずに、すごくわかりやすい文章で上手にまとめている。これは驚嘆ですね」

ビタミン欠乏が世界的な問題となっている今、私たちにできることは

『三石理論』には、健康を語るうえで基本となる3つの柱がある。その一つが大量のビタミン摂取を推奨する「メガビタミン」。日本では厚生労働省が「日本人の食事摂取基準」の中で摂取の上限を設定し、摂り過ぎによる弊害を訴えているが、ビタミンの専門家である阿部先生はすんなりと『三石理論』を受け入れられたのだろうか。

「学問の世界ですから、いろいろな考え方があり、研究者の中にはメガビタミンを非難している人もいます。しかし、私は当時からビタミンも他の栄養素も体内の化学作用によって現象化すると思っていたので、『三石理論』と考えがぴったり一致しました。いや、一致したのではなく、三石先生の考え方に共感したと言ったほうが正しいですね。しかも最近では、積極的に身体を守ることを考えたときに、不足したビタミンを補うことにとどまらず、さらに多くのビタミンを摂る必要があるということが世界的な動きになっています。

また、日本では13種類のビタミンが認められていて、厚生労働省は安全性上の耐用上限量を超えることを注意しなくてはいけないと摂取基準を出しているわけですが、副作用が極端に出るのはビタミンAだけです。『三石理論』ではビタミンAについてあまり語られていませんが、ビタミンAは摂り過ぎに注意が必要ですね。ただし、覚えておいていただきたいのは、耐用上限量とは『これだけの量を摂ったけれど何も副作用は出ませんでした』という数値であって、毒性が出た量ではありません。そこは正しく認識していただきたいですね」

ビタミンの大量摂取も非常に重要ですが、実際問題として気を付けるべきはビタミンの欠乏であると阿部先生は警鐘を鳴らしています。

「日本だけの話ではなく、世界的にビタミンが欠乏している現実があります。それはなぜか?食生活をはじめストレスや公害など要因は多々ありますし、高齢者がフレイル(虚弱)という状態になると、ほとんど全てのビタミンが欠乏している。そういうデータがあるのですが、『日本人は日本食を食べているから大丈夫だ』といった根拠のない説が流布されている。大きな問題だと感じています。例えば、食品分析表の数値は、何も処理していない状態での食品の栄養素を測っているんですね。しかし、野菜を茹でたり炒めたりするとかなりの量の栄養素が減ってしまいますし、ストレス過多になるとさまざまな栄養分が身体から減っていく。さらには運動して汗をかくと水溶性ビタミンの半分以上の種類が体外へ抜けていくことも判明しています。また、野菜を食べていればビタミンを摂れると思っている方が多いと思いますが、血液・免疫などの働きに関係するビタミンB12は野菜には一切含まれていないのです。食事から必要な量の栄養素を吸収できない分をサプリメントなどで補う『三石理論』は非常に理にかなった考え方だと思いますし、数十年前に分子栄養学としてそれを提唱した三石先生はすごいなと改めて感じますね」

研究結果を社会に還元するための実用性にまで言及している凄さ

科学の世界は時代とともに新たな発見があり、かつての常識が非常識になることも少なくありません。しかし、『三石理論』は基軸がしっかりしているのでブレがないと阿部先生は指摘します。

「10年ぐらい前から、活性酸素は身体に必要だけれど多量になると生活習慣病などを引き起こすという『活性酸素パラドックス』が一般的になりましたけれど、そのはるか以前から三石先生はこの事実を伝えていました。非常に先んじた研究をされていたわけです。また、昔から科学や医学の分野では、栄養と病気を同時に語ってはいけないという禁忌がありましたけれど、三石先生はそれを打ち破った。しかも、哲学をもって栄養学を研究し、その結果を我々の社会に還元するための実用性にも同時に言及している。そこが他の研究者にはない、三石先生の凄さなのです。お世辞抜きで尊敬しています」